プロジェクト1 第4回議事録
東京大学文化資源学公開講座「市民社会再生」2009
戦後の文化行政、美術館、さらにモダニズム建築を考える
プロジェクト作業(3) 要旨
2009.7.3
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I.今後の見通し(木下)
I-1.プロジェクトのコンセプトと必要な作業について
I-2.日程について
II.プロジェクトの内容について再確認(木下)
II-1.戦後の文化行政
II-2.モダンアートの美術館
II-3.美術館建築
II-4.その他
III.ディスカッション
III-1.フリー
III-2.調査の役割分担
III-3.ゲスト
IV.次回以降のための確認
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※草津合宿まで早くも残り2回となりました。そこで、木下先生から今後の見通しとして、コンセプトと必要な作業、スケジュール等を確認するお話が冒頭にありました。
I.今後の見通し(木下)
I-1.プロジェクトのコンセプトと必要な作業について
・このプロジェクトはあくまで神奈川県立近代美術館(以下「鎌近」)を手がかりとして進めていくが、
美術館あるいは建築についての一般的問題に展開していかなければ深みがない。
・美術館と建築の二つの議論は別物ではあるが、それらが交差する領域を探してみたい。
今のところ「ハコモノという概念」がその候補となろう。
・具体的な作業のロードマップ作りすなわち日程管理はやらなければならない。
→まず基礎的かつ具体的な情報収集をする必要があるが、
これはいくつかの小グループでやるのが良いだろう。
→さらに、文献や文字資料の収集、インタビュー計画、ゲスト選定も必要な作業である。
I-2.日程について
・今回7月3日と次回7月10日が終われば次は8月28日の合宿初日まで間が開く。
この7月10日から8月28日までの期間をどう使っていくかが重要。
・8月28日の合宿初日までに「議論の材料となるデータ」の収集が必須。
なお、合宿2日目の8月29日はグループで打ち合わせができる。
・当初、大学での講座日や合宿の日にゲストを呼んで一緒に話すつもりだったけれど、
大学に来てもらうのは現状では難しいだろう。むしろ、
われわれが出かけていってインタビューで情報収集することを検討するのがよくないだろうか。
・合宿3日目の8月30日には3つのグループがそれぞれの成果を公表しあう予定。
II.プロジェクトの内容について再確認(木下)
※以上の概要を踏まえ、木下先生からプロジェクトの内容について多少突っ込んだ意見開示がありました。
鎌近を手がかりとするわれわれにとって、ここから引き出せる問題が3つあること。
さらにその補足として「公共性」について。
II-1.戦後の文化行政
・鎌近から引き出せる問題の第一点として「戦後の文化行政」について。
・文化行政は戦後の早い段階に着手された。
それは「文化国家」の建設を目指すものであり、地方自治の象徴だと考えられた。
・しかし、1960年代の高度経済成長は「エコノミック・アニマル」の評言にあらわれているように、
終戦直後の理想とは別な方向に日本を導いた。
・さらに時代はめぐり、今度は経済至上主義に対する揺り戻しとして
「文化の時代」「地方の時代」が取りざたされるような状況に至っている。
・以上述べたように、戦後を問い直すことは、
戦後日本が目指したものがいかなる経過をたどってきたかを検証することである。
それはすなわち鎌近58年目の現状分析へとつながる。単なる過去の検証ではない。
II-2.モダンアートの美術館
・鎌近から引き出せる第二の問題。「モダンアートの美術館」ということについて。
・モダンアートは当時、普遍性を持つ文化として考えられてきた。
それはまさに世界へ開かれた通路としての美術館にふさわしいものであった。
・それから58年目を迎えたモダンアートの美術館に、市民社会再生拠点としての可能性はあるだろうか。
あるとしたらいかなる様態においてだろうか。
II-3.美術館建築
・鎌近から引き出せる第三の問題。「モダニズム建築」について。
・前項で述べたような「モダンアートの美術館」の機能にふさわしいものとして選び取られたのが
モダニズム建築であった。
・それから58年目のモダニズム建築が問いかける「建築保存」「建築の評価」「景観」について
考えることができる。
II-4.その他
・「多様性」という概念がある。これは、この公開講座において過去2年間追求してきた重要な概念だ。
多様性を担保できる社会のありようとはいかなるものだろうか。
・8月28日までに議論の材料を収集しないといけない。前回のレジュメとして出した10項目はその案である。
III.ディスカッション
※木下先生の問題提起を受けて参加者のディスカッション。まずは自由発言。
「→」はそれに対する木下先生や他の参加者、時には本人のコメント、フォロー
III-1.フリー
・先生のレジュメ通りにすすんでいったらいいのだろうか?
→とりあえず進行の枠組みを決めていく必要はあるだろう。
・現代社会一般の状況分析も有意義なのではないか。
→はじめはあまり広げすぎず、美術館にこだわる必要性を見いだすことが重要だと思う。
もちろん、現今のアートプロジェクトやその他の運動すべてを否定して美術館が残るべきだ、
という結論はまずあり得ないだろう。
その意味では「市民社会再生」の拠点についての議論が美術館だけでは収まることはないのだが、
とりあえず夏までは鎌近という物件にこだわっていこう。
・基本的な調査対象として前回のレジュメに示された10項目は、
時代背景によってその重要性や性格を変えてきたのではないか。
→興味に応じてこれらのテーマについて調査し、年表に落としこんでいくと何かが見えるだろう。
・今できるのは「分担」だろう。どう割り振ってどう情報収集していくか。
仮にインタビューをすることとなった場合、その仕組みについては事務局で検討する。
→たとえば見学会でお会いした稲庭さんは学校連携に熱心な学芸員なのだが、
既存の美術館では「美術史を学んだ学芸員が美術についての情報を提供する」
スタイルでずっとやってきて学校連携などの取り組みについていろいろと難しい部分があったりもする。
たとえば、ある作品についての学芸員の説明はキャプションとして提示されているのに、
作品を観た子供たちのコメントを壁面に掲示するのはなかなか困難である。
稲庭さんからはそういう方面の話も聴けるだろう。
→鈴木博之氏は建築史の先生だが、建築保存にまつわるあらゆる現場に関わってきた方である。
彼の経験をあらいざらい聞くことで何かが見えてくるだろう。
→公開講座は講義ではないので、木下は設計図を与えるというより交通整理のかたちで関わっていきたい。
III-2.調査の役割分担
※木下先生から、基礎情報の収集について分担を決めてしまおうというご提案。
とっかかりとして、各人、前回の10項目から調査したい項目を一つ挙げてコメントすることに。
なお、情報収集にあたってはネット情報に頼るだけではあぶないので、
十分な検証作業が必要とのご指摘もあった。
・ハコモノ概念形成史に興味がある。中身が伴っての美術館なのに。
→ハコモノという表記表現はマスコミ発なのだろうか。
建築関係者はみずから揶揄的な意味では使わないだろうから。
→新聞記事データベースで情報をとることができるだろう。
・美術館予算に興味がある。
→設置主体によって情報公開度にはばらつきがあるだろう。それ自体も情報。
・占領期の文化行政に興味がある。現在の自分の専門とも時代背景をともにしている。
・戦後の美術館建設史。当初現代美術には興味がなかったが、水戸芸術館に行ってみたらハマった。
水戸芸は現代美術についての拒否反応も多かった中でやり続けたことに意味がある。
設立当時の鎌近と重なるものを感じる。
→このリストで言えば美術館建設史年表の一部か。
→相模原市のように美術館の計画があるところも押さえてみるとおもしろい。
→美術館の反対運動(たとえば横須賀市)をも加えられるかも。
栃木県、富山県、その他いろいろと事件はあった。いずれにせよ年表の制作は役立つだろう。
・年表制作。現状とくに特別な思い入れのあるテーマがないが、
美術館がどのように残っていくのかというその選択基準、
あるいは「世界遺産」というようなもののメリットとは何なのか、といったことに興味がある。
年表作りにたずさわることで状況を俯瞰できるのではないだろうか。
→年表をきちんと(諸問題の全体像が見えるように)作るのは重要。そのフォーマットを作ってほしい。
→美術館が残るのは100年200年残るコレクションによってなのであるとかつては言われていた。
今はそのための予算から真っ先に切られているが、
ほんの数十年前にいわれていた美術館の理想像がそんなに簡単に変わって良いのか。
・設置条例や目的一覧。基本的には建築ではなく美術館に興味があるため。
→条例は非公開はありえないから見つけやすいだろう。
どういう力学で設置条例が決まってくるのか、それを見比べることで見えてくることもあろう。
・アニメの殿堂。今日も知り合いとその話題になった。
「とりあえずベースをつくるのは評価できる」派と「あんな箱をつくっても意味ない」派。
→鎌近を手がかりに美術館の問題を考えるけれど、最終的にこの施設について考えることはあり。
・いささか抽象的だが「人」について。「利用者」の変遷をたどるほかに、
「アーティストを育てるアクションを起こしてきた」のはどこだったのかということに興味あり。
さまざまな条件を考慮しつつ比較し特徴を抽出できないか。
この10年でくたびれちゃった館とそうでない館の比較など。
→公立館の利用者一覧は基礎資料として必要だろう。
・美術館建設史年表。これは単なるマッピング作業ではないと思う。
美術館の定義やあり方も変わっているだろうし。
建築という視点で言えば産業遺跡の再利用としての美術館というような要素も
ある時期から盛んになっている。こういった美術館建築についての視点の推移も視野に入れ、
気になる人にヒヤリングをしつつ。
→建築の方面からこの年表を充実させるという流れでしょうか。
いまは簡単に年表制作と言っているけど、実際にはいろいろな関わり方があるようだ。
→国立新美術館(コレクションを持たない)の出現によって美術館の認識のされ方も変わっている。
・東京中央郵便局の追跡に興味あり。モダニズム建築の保存と廃棄にかかわる諸要因を考えたい。
「評価の正当性」を認識してもらうにはどうすればいいのだろうか。
・年表。流れが見えた方がよいから。グッゲンハイムビルバオのように、
建築自体が作品というようなこともあるし。美術館のクロニクルをみるだけではなく、
どのような人に建築を依頼したかということも興味深い。
・美術館の機能や役割について情報を共有したい。そのために公立美術館の設置条例と目的。
・ハコモノ概念形成史。新しい評価軸を設定するのは難しいと思うけれど、
まずはいままで美術館がいかに評価されてきたか、ということを考えてみたい。
・鎌倉の景観保全状況。『地域再生 まちづくりの知恵』を読んで興味を引かれたこともあって。
さらに、鎌倉自体がいかなるまちづくりをしてきたか。ヒヤリングもしたい。
・占領期の文化政策。「占領期」のことをもう一度とらえ直し、
いわゆるハコモノ行政の前提・背景として知っておくことも大切なのではないだろうか。
・モダニズム建築の保存例。さらには保存されなかった例も押さえてみたい。
・予算。予算書にあたることができればどういう事業にどういう配分がなされているかがわかるだろう。
→全体をざっとみることができる資料が見つかるとよいが。
・広島平和記念資料館。
当時の広島の「市民社会再生」にいかなる役割を果たしてきたかを見ることもできるかと思う。
→一応これは例として挙げたのだけれど、今広島に絞るのはどうかな。
モダニズム建築の保存例として示したというところもあるので。
・年表が好き。年表を作りつつ、占領期の文化政策について考えたい。
「博覧会を横浜でやったときにアメリカからの抑圧もあった」という知事の記事を読んで
その背景を知りたいと思った。なぜ鎌近は横浜でなく鎌倉なのか、ということにも興味あり。
→
年表にはいろいろな要素があるから、その分担の仕方は考える余地があるかも。
III-3.ゲスト
※ゲストについて木下先生から提案あり。ゲストの人選のこととインタビュー形式のすすめ。
ゲストを誰にどのように依頼したら良いか、具体的に考えてみたい。
現状だと、ゲストが1時間話をしたら1日分の公開講座がそれで終わってしまうし、
7月10日に呼ぶのはもう無理。
むしろ、今の分担にしたがって調査をする上で必要な人に
インタビューするというやり方があるのではないか。具体的に話を聴きたい人の案を考え、
来週名前を出しあおう。
個々の分担について、8月28日までのアクションプランを考えて持ち寄るとよいのではないだろうか。
美術館と建築の問題がクロスオーバーする領域がどこにあるのか―
「ハコモノ概念」というのは本当にありだと思っているけど―ということも考えてみる必要があろう。
人を呼ぶなら「ものすごくインスパイアされる人」でないと。
細かい情報を取るだけならゲストを呼んで時間を使うよりもインタビューを実施する方がいいだろう。
だが、インタビュー形式は当初想定していなかったので、手土産(謝礼)等をどうしたらよいか、
システムを検討する。
IV.次回以降のための確認
来週で一区切りだけど、合宿前に一回は集まった方がいいと思う。7月17日はどうだろう。
モダニズム建築についてのシンポジウムが17日の夜にあります。
ともあれ具体的にインタビューしたい人を挙げる作業をしていこう。メーリスで意見交換しよう。
―以下、質問への木下先生の回答など
【合宿について】今のところ時間的なことくらいしか決まっていない。
初日は14:00頃現地集合して夕方までミーティング。
2日目は会議室は借りているのでグループの話はできる。
3日目はプロジェクトの中間報告。昼に解散。
合宿の記録係は1日1人になっているが、それはさすがにしんどいので分担を考える。
【入手困難文献について】読む手立てがない本などがあったら、メーリスに知らせてください。
【懇親会】合宿前にこのメンバで集まるのは来週が最後。
学校での打ち合わせが終わった後に場所を変えて集まろう。
店は「とうがらし」でいかが。翌日は鎌近の見学会だけど、その晩に集まるのは「原則として」なし。
【鎌近第二次調査団について】14:00本館集合。16:30別館へ移動してこどもと美術館のイベント見学。18:00頃解散の予定。
なお、当日行けない方で調査の際に聞いてきてほしいことなどがあればメール等で知らせてください。
【宿題】本日分担した基礎情報の収集活動について、
合宿までにどのように進行させるか、アクションプランを持ち寄る。