2009年7月9日木曜日

【第四回議事録】プロジェクト2:「『所有』からアートの公共性を考える」

プロジェクト始動からひと月近く経ち、だんだんと打ち解けてきたプロジェクト2です。
MLでのやり取り・資料の持ち寄りなど、自発的な良い雰囲気で進んでいます。
それでは、第4回の模様をお送りします。


前回までのおさらい

当初から議論が続いている「公」「共」「私」の概念。
それらの整理の一型として先週曽田先生がご提示くださったのが「ペストフの三角形」でした。
このペストフの三角形について各自勉強してくる、という宿題を踏まえ、
「公」「共」「私」の区分を意識しながら議論を行いました。

この三角形では「国家」が「公」、「市場」が「私」、「コミュニティ」が「共」に相当します。
それぞれの領域自体は変化せず、境界線の移動によって変化が生じるというのがポイント。
(参考図版:ビクターA.ペストフ著『福祉社会と市民民主主義ー協同組合と社会的企業の役割』
(日本経済評論社、2007)より引用)


■今週の議論-------------------------------
*アートによる土地環境向上=排除?

今週の持ち寄り資料の一つ、「246表現者会議」。
国道246号線の渋谷駅高架下に描かれていた落書きが
ある日デザイン学校生によって「春の小川」という「作品」に描き換えられ、
ギャラリースペースであるという主張のもとにホームレスが立ち退きを命じられた事件。
黄金町バザールでも同様にアートで歓楽街の浄化が目指された。
このことをどう考えるか?

・アートを排除の道具に使うのはどうなのか
・排除とは一概に言えないのでは?黄金町では一緒に何かをつくろうとした
・NYやオランダ、ドイツ等ではアーティストの受け入れによる土地環境向上(「ジェントリフィエーション」という)が制度化されている。最初は不法占拠でも、アートによって地価の上昇(=「私」の承認)や住民の受け入れ(=「共」の承認)が得られると、アーティストに権利が生じる。アートに本来的に公共性が備わっているゆえ。

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*承認のシステム

先の海外での事例は、
占拠した当事者→その当事者に共感する人→社会→政府、という4段階で承認がすすむ。
では日本における承認のシステムは?

・日本では市場(=「私」)が承認を担うケースが多いのでは(オルタナティブスペースがギャラリーになったり)。
この場合、営利性が承認の基準になるので分かり易い。
・歌舞伎は当初政治・風俗に良くないということで公権力によって規制された。それが今では一転、文化として価値づけられている。「公」以外の価値システムで認めるという発想がない(「アニメの殿堂」も同様)。
・日本の劇場が欧米のような「公共劇場」にならないのは、そもそも最初の劇場である帝国劇場が株式会社(=「私」)だったこととも関係するのでは。芸大に演劇科がないのも一因。

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*「共」における承認をどう制度化するか

各地で箱物の文化施設が次々に建設された時代、それは貧しさからの脱却、文化への憧れという市民のニーズに基づいていた。
公立ホール建設に対する国庫補助を背景に、隣も持っているからうちも......という行政側の事情もあった(cf.梅棹忠夫「水道蛇口論」)。
その後経済成長が進み文化のあり方は変わったのに、80年代のアートバブル期には多額の税金で美術品が買われ批判が相次ぐなど、市民のニーズとの乖離が進んでしまった。今の時代において「共」の承認を得るにはどうしたら良いのか。

・金沢21世紀美術館はコミュニティでの承認を得られた成功例。
・十和田市現代美術館は周囲から浮いている感じ。コミュニティでの承認は数で計れないから難しい。
・ヨーロッパでは共同体で支持されていたものが市民制度導入に伴ってそのまま公立劇場化した。日本では江戸時代、演劇が「共」に根付いていたのに、「公」の承認は受けられなかった。寄席や芝居小屋(今で言うならテレビやネット)など、共同体で根付いていたものは市場(=「私」)に回収され、代わりに日比谷公会堂や帝劇などが文化として整備された。
・「公」や「私」を介さずに「共」において承認されるような文化をどう位置づけ、回復していくか。

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*所有からコミュニティ論へ

・ペストフの言う、非公式(インフォーマル)で非営利、民間(私的)の領域を回復することが必要。これ以上大きな政府にはなれないし、市場も膨張しすぎ
て傾いている。コミュニティの三角形がもっと大きくなることが大切なのでは。
・コミュニティの三角形はゆるやかである必要がある。地縁や血縁に限らず、あるものをいいとみなす感覚の共同体(感覚の作品化がアーティストの役割!)。
・排他的にならないためには、「共同体」ではなく「共同性」。「つながりうること」。

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この日の議論はここまで。「承認」や「つながり」をキーワードに、「共」について考える内容になりました。


■ゲスト


プロジェクト2では合宿後に2名のゲストをお招きする予定ですが、7,8月中に各自(orグループ)で気になる人に取材を行い、合宿で報告し合います。
今回の議論のフレームワークとなった「ペストフの三角形」はその取材に際しても活躍してくれそう。
この三角形のどの辺に自己定義するか?
その定義は周りの定義とどう違うか?などなど......。
質問項目のフォーマットは来週までに再度練り直す予定です。

■今週のフリースピーチ:古賀さん

・自分は三角形のどこにいるんだろう?
・アートファンが楽しめる美術館と、入場者数の多い美術館と...社会においてどれが幸せ?
アルバイト先の美術館が観光地にあるということもあり、日々悩みつつ活動中。


以上、長文お読みいただきありがとうございました。

それぞれのプロジェクトで議論が進んでいることと存じます。
合宿で交流できるのを楽しみにしております。
(議事録:中村み、編集:川上)

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